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※※※
「白灰……もしかして見失った? 」
きょろきょろと周囲を見回す鉛筆画の子猫の小さな背中に問い掛ける。
子猫は背後に立つ栞を無視して、進路をやや右に直した。
真っさらな雪に子猫の足跡は残らない。
白い姿を見失わない様に歩調を合わせた。
「白灰、本当にその人ここに居るの? 」
歩く子猫は引き返してきて、栞の蝶結びにした靴紐を噛んで引っ張る。
その目が怒っていて、栞は苦笑して背中を叩いた。
「分かった分かった。疑って悪かったよ。ほら、案内して」
子猫を促しながらも、やはり内心は腑に落ちない。
「ここ」に人が入り込む事は無い筈なのだが。
…………考えても仕方ないのだろう。
所詮「相性」について等、栞には分からない。
白灰はその後も周囲を見回しつつ、雪に埋もれ掛けていた可愛らしいポシェットを見付けた。
淡い水色に染まった革が水を吸って変色し、重たくなっている。
栞がそれを拾い上げると、白灰はまた歩き出した。
少し歩いては、きょろきょろきょろきょろ。
その姿が、不意に雪の中に沈んだ。
「――――白灰! 」
慌てて五メートル程を駆け付けたが、間に合わなかった。
白灰が消えた辺りはただの雪面があるだけで、子猫が雪に埋もれた様子も無い。
何も目視は出来ないが、膝を着き、手で探ると亀裂を感じた。
「…………穴? 」
白灰はここに落ちたのだろうか。
このポシェットの持ち主も、もしかしたらこの先にいるのかもしれない。
一体何故こんな場所に亀裂が出来ているのか。
点検したつもりでいたが、亀裂なんて可能性は考えもしなかった。
何処に繋がっているかなんて、それこそ考えるだけ無駄だろう。
白灰が戻って来ないところを見ると、向こうにこちらへ通じる道が無いのかもしれない。
面倒だな、と心に浮かんだのを無視する事にして、栞は亀裂に踏み込んだ。
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