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「あたっ」
思いの外強い重力に引かれ、強かに右半身を打ち付けた。
「何で穴が空中にあるんだよ……」
慣れない痛さで涙が出そうだ。
雪を触って冷え切った手で、打ち付けた頭を押さえる。
顔を上げると、乾いた風が頬を撫でた。
褐色の煉瓦で作られた細い路地と、それを囲む壁の様な建物。
見覚えのある風景に安堵する。
路地は迷路の様に曲がりくねり、先が建物に隠れて見えない。
取り敢えず白灰を捜し、表通りに向かおう。
恐らく同じ場所に居るなら白灰の方から来る筈だが。
煉瓦の道が少し右にカーブして、鈎型に左に折れる。
特徴的な道で現在地が判った。
この町は建物がどれも似ていて、栞にはあまり判別がつかないのだ。
覚えのある道を進み、高い建物の間に細く見える空を見上げる。
東京のものとは比べ物にならない青さだ。
水色のポシェットが風が運ぶ砂で汚れてしまった。
自分も相当汚れている。
さっさと見付けて早く帰りたい。
「シオリ! シオリじゃないかい? 」
通り越した建物の上部から声を掛けられ、振り仰ぐ。
最上階の四階の窓に洗濯籠を抱えた女が居た。
桟に籠を置いて身を乗り出す姿には見覚えがあった。
「エマおばさん。丁度良かった。見掛けない人来なかった? 」
窓の下まで戻る。
「何、また人捜し? ……そうだね、最近はそんな話聞いてないよ」
「この鞄の持ち主だから、多分若い女の子なんだ。もし見掛けたら教えて」
「解った。他のにも伝えとくよ」
「有難う」
手を振って別れを告げ、先を急ごうと視線を下ろす。
通り過ぎた道の角に、白灰の姿を見付けた。
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