夏期休暇の始まり

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白灰に導かれ、先程までとは真逆の方向へ向かう。 横道は無く、壁に挟まれたただの細い一本道だ。 行き着いた先は、一枚の古びた木製のドアだった。 白灰がかりかりとドアを引っ掻く。 「……こんな場所にドアなんてあったっけ? 」 覚えがある様な、無い様な。 かりかりかりかり。 やはり初めて見るドアだ、と結論付けて、栞は急かす白灰を抱き上げてドアを押した。 今度は灰色ばかりの世界だ。 石畳の細い道と、石の壁の家々。 空までが灰色のこの場所は、やはり見覚えがあった。 だが、こんな所にドアは無かった筈だ。 そう考えて振り向くと、向こう側のドアが閉まると同時に、そこは何も無いただの石壁になった。 「こっちからは行けないって事ね」 子猫を石畳に下ろす。 周囲を見回す事無く、白灰は進み出した。 栞は横道に見向きもしない後ろ姿を追いながら、空を見上げて指笛を吹く。 建物は基本が平屋なので、空が広い。 灰色のその空に、小さな黒点が差した。 黒点は次第に大きさを増し、やがて烏程になる。 烏に似た黒い鳥は栞の肩に降り立ち、黒い嘴を開いた。 「いきなり呼び付けて、一体何の用だ? 」 低い男の声だ。 白灰とは違い、羽や瞳等の全てが本物に見える。 「……日暮さん、肩痛い」 「我慢しろ。して、用件は? 」 栞は歩き出し、水色のポシェットを日暮の嘴の先に掲げる。 「これ持ってそうな歳の子来なかった? もう随分捜してんだけど見付かんなくて」 「……いや、何も感じなかったが。いつ頃の事だ? 」 「白灰が騒ぎ出したのが……えーと、三時間前位かな。…………『雪兎』で時間掛かっちゃってさ」 三時間と聞いた日暮に呆れを含んだ視線を向けられ、つい言い訳じみた言葉が口をつく。 ごまかす様に、腕時計の表面を未だ冷たい指先で撫でた。
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