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折角知り合いの目が無いのだ。
お気に入りの白いワンピースを着て、今日は陽射しも強いし、あの日傘を差して行こう。
知り合い全員にこの趣味は知られているし、今更気兼ねする必要は無いのだが、やはり一緒に行動する時にこういう趣向の服は控えてしまう。
その点、今日は単独行動だ。
好きな服を着てしまおう。
意気込んで、淡い水色のポシェットを掴んだ。
自室から出て階段を下りる。
「母さん、この間言ってた割引券何処? 」
居間で寛ぐ母に訊ねると、電話の横の棚にある筈だと言われた。
母が普段使う引き出しを開ける。
確かに目的の物を見付けた。
「使って良いんでしょ、これ? 」
「好きにしなさいな」
「じゃあ、一枚貰ってくよ」
ひらひらと振って母に示してからポシェットの中の文庫本に挟む。
「アキちゃん、一人で行くの? 」
意外そうに聞かれ、笑う。
「みーんな部活と予備校」
「寂しいわねぇ。アキちゃんも部活に顔出せば良かったのに」
「引退したやつがそんなに顔出しても、嫌がられるだけだよ」
「そんな事無いと思うけどな~。アキちゃんトコ冷たい感じ? 」
「今時そんなもんじゃないの? 」
煎餅をばりばり食べながら聞く母親に、苦笑して答える。
母親の湯飲みの緑茶を一口貰って、出掛ける事にした。
「夕方には帰ると思うよ。そこのデパートでしょ、これ」
「前みたいに帰りのバス間違えないでね」
「いつの話だよ」
「さあ? 」
本人の記憶が正しければ、小学生の頃の話の筈だ。
普段なら失敗なんて忘れてしまうのに、延々からかわれるから忘れられない。
「もう大丈夫だって。行ってきます」
「行ってらっしゃい。帰りは五番のバス停から帰るのよ」
「分かってまーす」
お互いにけらけらと笑う。
母親が手を振るのに軽く振り返して居間を出た。
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