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真っ黒な長髪の鬘が少し暑い。
背中の半ばまでの流さの人工の黒髪は、清楚を装って束ねずにいる。
日傘と帽子で陰を作っているとはいえ、背中が暑かった。
表通りで最寄り駅までのバスに乗る。
中学校が夏休みを迎えても、世間一般には平日だ。
空いていた二人掛けの席の窓側に腰を下ろし、外を眺めた。
車内は混雑する事無く、終点まで辿り着いた。
まだ若い親子連れと主婦二人、会社員らしき中年の男が降りてから、端末を翳して電子通貨を払う。
客が居なくなったバスは、すぐに走り去ってしまった。
移動距離は短いが、日傘を差す。
駅前のロータリーを通り過ぎ、隣のデパートに入った。
好みのメーカーの化粧品を眺めながらエスカレーターに乗る。
壁に貼られた広告で目的地の階層を確かめ、寄り道をせずに一気に昇った。
普段も文具や本等を買いに来るが、催し物の場所には明るくない。
エスカレーター脇の案内板で場所を確認すると、随分と奥まった場所に目的地があった。
案内図の通りに生活用品売り場を抜け、更に食器売り場を抜ける。
突き当たりの壁にでかでかと「綾部一馬 奇跡の絵画展」と書かれているのを見付けて、やや歩調を早めた。
あまり人気が無く、入口も静かなものだ。
受付で割引券を見せ、学生料金を半額にして貰う。
受け取った入場券とパンフレットを手に、薄暗い展示場に足を踏み入れた。
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