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周囲に誰もいないから、一枚ずつじっくりと見て回っていく。
見進めていくうち「雪兎」というタイトルの絵に、とても心惹かれた。
入口から数えて十枚目だったと思う。
キャンバス一面の雪と、中心よりやや左に描かれた小さな椿。
紅い椿が、疎らな緑の葉に隠れる様に一輪だけ咲いていた。
他の絵とは何かが違う。
雪はただ一面の雪でしかないのに、淡い、何色かも判らない陰影が素晴らしく、単純な構図なのに目が離せない。
何だろうか、この気持ちは。
まるで絵の向こうの澄んだ空気が感じられる様だ。
冷たい雪が、手の届く場所にある。
肌寒くさえ感じた。
サンダルを履いた素足が、冷たいものに触れる。
一瞬の目眩。
見回した周囲は、何も無い、ただ一面の銀世界だった。
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