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私鉄の窓から外を眺める。
昼の日差しは窓硝子越しにもじりじりと肌を刺して、栞は緑茶のペットボトルを掴んでいた手を当てて冷やした。
段々と見慣れた町並みが見えてくる。
あ、確かあのデパートだよな。
近付くデパートを左に眺めつつ、電車が停まる。
降りようかと考えて、しかし用事が無い事に思い至り、席を立たなかった。
閉まる途中の扉が一度音を立てて開き、車掌の声と共に閉まる。
空いている車内で、二駅前から乗ってきた女子高生達の声が響いて煩かった。
じりじりと背中を焼く陽光が頭痛を誘う。
緑茶じゃなくて、水でも買えば良かったかな。
取り敢えず、後一駅で着く。
着いたら何を食べようか。
朝から電車を乗り継ぎ乗り継ぎで、腹が減っていた。
半日掛けて辿り着いた町は一年前とそれ程変わらずにそこにあった。
駅前の小さな商店街の蕎麦屋で昼食を済ませ、薬局で鎮痛剤とスポーツドリンクを買う。
店先で薬を飲んで、駅の横にあるタクシー乗り場に向かった。
「大鳥山の麓の茶色い煉瓦の洋館、分かりますか? 」
「あの蔦が絡み付いてる大きいやつ? 」
「はい。あそこまでお願いします」
大きなスポーツバッグを後部座席の右側に押し込み、自分が左側に収まると自動でドアが閉まった。
「お客さんあそこの人? でも、あそこ人住んでないよね? 」
「夏だけ来るんですよ。あそこ祖父母の家だったんです」
「今は別荘? 優雅でいいねぇ」等と言う中年の運転手の次々と湧く質問ににこやかに答えて、十分程の道程を過ごした。
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