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栞自身は夏毎にしか来ないが、父親が割と頻繁に出入りしているし、その都度業者に依頼して掃除して貰っているので、外観の鬱蒼とした雰囲気程中は汚れていない。
それでも多少は気になるので、居間と自室の窓を開け、使う予定の布団を干してから台所へ向かう。
いつもなら同行した母親がやるのだが、二月に一度体調を崩して入院した為、今回は大事をとって来ていなかった。
今頃は自宅の冷房で涼んでいるだろう。
冷蔵庫の中を確かめると、缶や瓶、名前も様々な酒類が所狭しと詰まっていた。
冷凍室の中は見事に空で、何か駅前で買って来れば良かったかと今更思う。
今晩は出前でも取って、明日近所のスーパーに何か買いに行こう。
仕舞ったままの自転車が蜘蛛の巣の餌食になってないと良いのだが。
今から確かめに行こうか、とガレージに足を向け掛け、何かに呼ばれる感覚に振り返った。
「……何かあったかな」
駆け足で居間を出て、木製の手摺りを掴んで方向を修正し、階段を駆け上がる。
左に二つ目の自室のドアを素通りして、隣の部屋に入った。
「白灰」
無人の室内に声を掛けた。
遮光カーテンで夏の陽光を遮った薄暗い室内の中心の、イーゼルに掛けられたキャンバスの埃除けの布を外す。
鉛筆で描かれた子猫と目が合った。
…………。
みゃう、と鳴く様に口が動く。
声は聞こえないが、その意思が頭に直接届いた気がした。
また誰かが迷い込んだのか。
もうあの人の描いたものはそれ程の数は出回っていない筈なのに、一体誰が入ったんだか。
…………。
「分かってる。今行くよ」
催促する声に応えて、栞は絵に手を翳した。
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