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※※※
一体どれ程の距離を歩いたのか。
サンダルを履いた素足に触れる雪はただただ冷たく、痛みを通り越して次第に感覚が曖昧になってきた。
不思議な事に、踏み締めて確かに足跡を付けた筈の雪面は、振り返れば雪が降っていないのに真っさらな状態で、自分が何処を歩いてここまで来たのか全く判らない。
踏み出した右膝の力が抜け、支えようと突き出した両の手も虚しく、雪面に人型を作った。
「……も……いや」
寒くて、疲れて、歩く事を放棄してしまいたくなる。
実際にそんな事をしようものなら、あっという間に凍死だろうか。
でも、この程度の寒さなら死なないだろうか。
頬に当たる雪が痛い。
放棄してしまおうか。
そう、このまま瞼を閉じてしまえば良いだけだ。
きっと楽になれる。
気に入りのワンピースが、水を吸う。
水色のポシェットも、何処かに落としてきてしまった。
高かったのに、勿体ないな。
朦朧とした意識で、そんな事を考えた。
ぐん、と強く腕を引かれる感覚。
引き上げられる様な、落ちていく様な、よく解らない引力に、強引に導かれる。
気が付くと冷たい雪は消え失せ、赤茶けた煉瓦の上に寝ていた。
西洋風の町並みに、煉瓦を敷き詰めて舗装された細い道。
人気が無いと思ったが、見上げれば建物の間には洗濯物が干されていて、誰かが居るらしいと感じさせる。
誰か歩いててくれれば良いのに。
凍死は免れたらしいが、起き上がって見てみると、水を含んだ服と鬘が今度は砂埃で茶色く染まっていて、切なかった。
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