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時刻は丁度丑三つ時。
古くより伝わる鬼門の刻限。
忌み嫌われし悪の流出せし刻、地獄が群れを成して降臨する。
京都には、一条戻橋と呼ばれる霊地が存在する。
かの高名な陰陽師、安倍清明が式神を隠していた事で有名な名所。
その場所は、現世と幽世を繋ぐあの世への孔としても知られる。
ここ幽祇市(ゆうぎし)にもそれに酷似する霊穴を備えた場所が存在する。
物語のきっかけはそこから。
まるで些細な日常のように始まる。
「うわあ!どうしようリッちゃん。これ多分失敗しちゃってるよ」
「母さん。その“目玉焼き失敗しちゃった。えへ”みたいなノリでこの事態を語らないでもらえますか?
どうするんですか?
これ、かなりやばいですよ?」
「うーん。リッちゃん目玉焼きは半熟じゃないと怒るでしょ?
母さん半熟にするの苦手なのよねぇ」
「……いや、目玉焼きはもう良いですから…」
幽祇市の霊峰、喪取山(もとりさん)。
樹海に囲まれたその山には地元民すら立ち寄らぬ洞穴が存在する。
古来より、死んだもの達が集う場所として伝えられ、
心霊スポットにも加えられない程に、凶々しい空気を孕む穴。
その奥地にて、その場には到底似付かわしくない風体の、二人の親子が会話を紡ぐ。
「しょうがないわね。じゃあ予定通り、あとはリッちゃんに頑張ってもらうとして、“儀式”だけは済ませないとね」
にこやかに、まるで今晩の夕飯を作るように、サクサクと準備を進める母を、
彼女、風原律子(かざはら りつこ)は忌々しげに睨んでいた。
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