最後の代走

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1年前… この甲子園の舞台で一際目立つ選手がいた。 彼の名前は藤井 夕陽。 当時、2年生だった彼は抜群の走力を生かした野球スタイルで甲子園に旋風を巻き起こした。 出塁するたびに盗塁。つねに次の塁を狙う積極性。その一生懸命さは数多くのファンから期待の視線を浴び続け…周りからは「韋駄天」そう呼ばれた。 だが…、韋駄天の夏は意外な結末であったのだ。 いつものように3塁に到達する藤井。すると、打者は外野にフライを上げる。 微妙な距離感であった。 だが藤井はタッチアップの構えをとった。必ずホームに帰る。その闘志に燃えていた。 外野手が打球を処理する。 と同時に藤井は3塁ベースから離れる。もちろん向かう先はホームベース。 藤井はがむしゃらに走る。 そして渾身のヘッドスライディング。クロスプレーの中、土煙が豪快に舞う。 「アウト」 主審が虚しく手をあげた。 韋駄天の夏は幕を閉じた。
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