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少年達が走り出した事を確認した女は、何かを呟き始めた。
すると、女の手の平の上に握りこぶし程の大きさの火球が現れた。
魔法だ。
女は火球を一体のオーガに向けて放った。
小規模な破裂音をたて火球は見事顔に命中した。
しかしその個体は数秒怯むと、何事もなかったかのように再び駆け出した。
大したダメージを与える事はできなかったようだ。
女はそのように必死に抵抗して、少年達が逃げる為の時間を稼ぐ。
一方、少年達は足がふらつきながらも、必死に逃げ続けていた。
時折転んだりして腕や膝に擦り傷を作りながらも、女の言葉を忠実に守り走りつづけた。
しかし、逃げるといっても所詮子供の足。
小さく短いその足では、大した距離もかせげない。
少年達が必死に逃げているその時――
「ああぁぁぁあああぁあ!」
女の悲鳴が辺りに響き渡り、反射的に足を止め振り返る少年達。
そこで少年達が見たのは、オーガ達が女を囲んで歓喜している光景だった。
少年達はその光景を見て動きを止め、固まってしまった。
まるでその後自分達が受ける衝撃に、備えるための準備であるかのようだ。
女に何かをしているのはわかるが、逃げた事により遠く離れた場所からはよくわからなかった。
少年の脳裏に最悪の事態が浮かぶが、それを認める事はできない。
認めてしまえば、正気ではいられないから。
だから、気のせいだろう。
何かが折れる音なんて、何かがちぎれる音なんて、飛び散る赤い液体なんて。
少年達は今までにない恐怖に、心と身体が蝕まれていた。
そして少年達が動けないまましばらくすると、一体のオーガが少年達の方を振り向きざまに見た。
そのオーガの口には……
肉塊となった女の、ちぎれた腕がくわえられていた。
正に少年の脳裏に浮かんだ、最悪の事態であった
その光景を見た瞬間。
「う……ああ……うぁ……ああぁぁあああああああ!」
少年の中で、大事ななにかが、音を立てて崩れていった――
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