日常はかくも脆く崩れ去る

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黒のスーツに身を包み、名簿と教材を片手にやって来た“担任”。 180センチはゆうに超えていそうな長身と、窓から射し込む光を反射させる銀髪。 「おはよう、諸君」 なに食わぬ顔で彼は言う。 (なんであいつが……いるのよ) 昨日、衝撃的な出会いをした妖狐ーー比槻憐が教壇に立った。 開いた口が塞がらないを体現している希良々。 『みどりちゃん先生』の愛称で親しまれる担任が、スペシャルなエステで一夜にして銀髪の長身イケメンに変貌を遂げたの? いや、そもそも性別が違うじゃない。 それともこれは悪い夢の続き……? そんなことを希良々が考えている間に、当番の生徒が「起立、礼」と言ってクラス中の椅子がガタガタと揺れては静かになった。 希良々はそんな中でただ一人、椅子から立ち上がりもせず憐を見詰めるばかり。 そこで更にクラスの異変に気付く。 “異変”というより、変化がないのが可笑しいと周りを見渡す。 (どうして誰も何も言わないの……?) 学校で一度も見かけたことがない、得体の知れない男が教壇に立っているというのに。 希良々はまた憐に視線を戻すと、憐も希良々に視線を注いでいて。 眉根を寄せて訝かしむ希良々とは対称的に、憐は余裕な笑みを浮かべていた。 .
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