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私は傷の手当てをしていると何故か笑いたくて仕方なかった。
──自嘲。
そう、これは今思えば、自分の彼氏、自分の所有物だったものをとられて自暴自棄になっていただけのこと。
子供の癇癪のようなものだろうか。
いや、違う。
私が自殺を図ったら彼氏が戻ってくるのではないかという甘い考えが意識のどこかにあったのだ。
だが、現実は甘くないことを私は言葉でなら理解出来ている。生まれてから今日までの経験が証明している。
再び私は自嘲する。
傷口に固まっていた血を洗い流すと、また血が水道水と一緒に流れていった。
そして、血は流れなく水だけが流れていった。
次の日から私は私の日常に戻った。
昨日までと違うのは私には現在付き合っている男がいないこと。
当分の間、私はあの男、私をいとも容易く捨てた男のことを思い出し、精神的に落ち込むことだろう。
リストカット痕は腕時計で隠せた。あまり、世間体的には好ましくないからだと思ったし、それをネタに会話をしたくないから。
でも、いつか私はこのリストカット痕が残ってしまい聞かれたら、若気のいたりだと言って笑い話にするのだと思う。
──私はもう、リストカットはしないだろう。
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