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「ねぇ、知ってる? 旧校舎にまた顔無し死体が置かれてたんだって」
朝、ホームルーム前の喧騒に包まれる教室で囁かれる噂。女子生徒が言うように、旧校舎には「KEEP OUT」の黄色いテープ。そして警察。だが何が起きたのかは全く明らかにされていない。
このように中身が定かでない怪しい怪談話(怪しくない怪談というのも変な話だ)のような噂が頻繁に出て来るここ『楼鳴館』。変わった名前をしているが、ただの私立高校だ。
「ほら、席に戻れ。ホームルーム始めるぞ」
スーツ姿の担任教師が適当に声を張りながら教室に入ってくる。やる気が有りすぎず無さ過ぎずな、つまり一番「長持ち」しそうなタイプの人間だ。
教師は簡単に出席を取ると、臨時連絡事項として旧校舎でのことを話し始める。
「えー。みんな知ってるとは思うが、旧校舎で殺人事件が起きた。犯人は不明で行方も分かっていない。ただ、校内に居る間は安全だから授業は平常通り行うからな。帰りは絶対に一人で帰らないように。迎えに来てもらえる奴は来てもらえ。以上、ホームルーム終わりっ」
教室にブーイングの波が起きる。生徒の興味は事件よりも、それによって起きるかもしれない時間割短縮が主だったようだ。
生徒を適当にいなし、教師は退室した。一時的な拘束が解かれた生徒達は再び思い思いに行動を始める。
「ふむ……下戸野はああ言っていたが、どう思うかね八目希一クン」
この動きに漏れず、一人の女子生徒が目立った特徴の無い黒髪眼鏡の男子生徒にこそこそと話し掛ける。
「どうもこうも、殺人事件なんでしょ? 何をどう推測しろっていうんですか」
八目希一(やのめきいち)と呼ばれた男子生徒は一時限目の授業をしながら適当に受け流す。しかし女子生徒はこの素っ気ない態度になれているのか、引き下がらない。
「又聞きに又聞き重ねたような情報なんてアテになんないじゃないさ。やっぱり自分で推測を立てて、真相を暴いていかないとダメだと思うのよ。オカ研会長としては」
「会長といっても、僕と東雲さんの二人しか所属してませんけどね。学校非公認ですし」
「学校の許しなんていーの! 大事なのは活動してるかどうか!」
「そんなことばかり言ってるから二年なんかで留年(ダブ)るんですよ、先輩」
「違う、先輩じゃない! キミと私はクラスメイト、同・級・生!」
「分かりましたから。一限、数学ですよ」
「もう! 冷たいなあ!」
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