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希一は先行して教室から出る。おもむろに階段の方を見ると、また人影らしきものが一瞬だけ映る。影はすぐに壁に隠れて見えなくなった。
期待を裏切られたショックが余程大きかったのか、希一の様子に気付くこともなく白馬は続いて教室を出た。
そのまま旧校舎を出るが、希一がテープを跨いで出て来ないことに気付き白馬は不思議そうに振り返る。
「どしたの、きーくん」
「いえ……どうやら落とし物をしたらしくて」
「どこ? 中で?」
「おそらく」
「そっか。じゃあ探しに戻りますかー」
「あ、いえ。東雲さんは先に帰っててください」
再びテープを乗り越えようとする白馬を制止する希一。白馬は片足を上げた状態で止まった。
「いいよ、付き合うよ?」
「いえ。そんなことに女の人を付き合わせるわけにはいきませんよ。もう夜も遅すぎますから、東雲さんは家で休んでください」
「むぅ……なんか除け者にされた気分だけど……いいの? ホントに帰るよ?」
「はい。お気を付けて」
「……うん。また明日ね? おやすみ」
「おやすみなさい」
白馬は渋々といった様子で帰路に着いた。その背が見えなくなったのを確認してから、希一は校舎内に戻る。
「……しかしな。戻ってきたは良いけど、ただ影を見たってだけだから手掛かりなんて無いんだよな」
一階廊下のまだ通っていなかったルートを進みながら、ぶつぶつとぼやく。先程通ったルートには教室が並んでいたが、こちらはどうやら実習室等の大きい部屋があるようだ。
「まぁ、元々知らない場所だし端々探索しても良いけどさ……お邪魔します」
別に誰が居るわけでもない部屋に希一は挨拶しながら入った。
中は横長に広いが特に何も見当たらない。壁に付けられた黒板やボードを見ると、ここが音楽室だと判る。
「……ここには居ないか」
音楽室の中を見回していると、背後──廊下から床の軋む音が聞こえる。
旧校舎は全て木造でしかも古い。風や膨張で音が鳴るのはよくあることだが、このタイミングで鳴れば誰でも不審に思ってしまう。
「……」
希一は息を殺して、入り口の壁に張り付く。のこのこと不用心に出て行って、もし本当に殺人犯が居たとしたら事だ。だったら勢い良く飛び出して相手のタイミングをズラしてやった方が、まだ危険は減らせる。
嫌な高鳴り方をする胸を抑え、希一は飛び出した。
「誰だ!!」
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