3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたの考えてる通りだってば。私が殺人犯よ。で、今日の獲物はコレ」
晶子はポケットから携帯電話を取り出し、カメラのライトを点ける。そのまま自分の足元を照らした。
「っ!? くっ……惨いこと、しますね」
ライトが向けられた先には、顔面の皮を剥がされ断末魔の顔のまま死んだ男が在った。
目を逸らし一杯一杯の状態で訴える希一を見て、晶子はクスクスと笑う。
「男の子でもこういうのは苦手だったかしら?」
「苦手とか、そういう話じゃないでしょう!」
「そういう話だと思うけれど。それより、そんなことばかり気にしてていいの? 今の状況を良く考えて」
真夜中の旧校舎。噂通りに転がる顔無し死体。目の前に居る殺人犯。手足を縛られ椅子に座らされている自分。本当に嬉しそうに笑っている殺人犯。本当に楽しそうに、机の上に置いてあった包丁を手に取る殺人犯。こちらに向き直る、殺人犯。
「ここまで来れば、あなたが今どんな役割を与えられているか……解ったわよね?」
「いいえ、全く」
「ツンデレってやつ? どうでもいいけれど。じゃあ綺麗な顔で死んで──ねぇ!!」
上から振り下ろされる包丁。その切っ先は希一の心臓を狙っている。
だが希一も黙って殺されるほどお人好しではない。包丁が届く前に、椅子から跳ねるように離れて晶子を突き飛ばした。
「げはっ!?」
「──っ、ぐっ……」
晶子が尻餅をついたのと同時に持っていた携帯が壁まで飛んで天井を照らす。
晶子を突き飛ばしたのは良いが、頭から突っ込んだのがまずかった。ただでさえ思い切り殴り飛ばされて脳震盪を起こしていたというのに、そこにまた衝撃を直で与えたのだから体なんてまともに動かなくなる。
「ごほっ……ひどいじゃない。女性を突き飛ばすなんて」
腹部を押さえ咳き込む晶子。何か行動するなら今がチャンスだが、今の希一だからこそ何も出来ず床に転がっていた。
「抵抗出来ないと思ったのが甘かったわ……でももう大丈夫。今度はすぐに刺してあげるから」
歪んだ笑みを浮かべ四つん這いで寄ってくる晶子を、希一は痛みをかみ殺しながら睨む。
「ふふ……そんなに睨んでも意味無いわよ? それじゃあ、おやすみなさい」
「……影」
右手で逆さに持った包丁を振り上げる。もう狙いなんてどうでも良いのだろう。とにかく希一の胴に刺さるよう、右手を振り下ろした。
「──踏んだ」
「え?」
最初のコメントを投稿しよう!