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「ひおちゃん!!シュウちゃん!!」
「…っ!」
「っあ?…んだよ、桜歌。」
突然の桜歌の声に驚きビクリと身体を震わす。そんな僕に気付いたのか、…気付いていないと願いたいが。秀弥は僕より先に桜歌の方へと向かっていく。
「桜!ほら!綺麗だよ!!」
一際大きな風に吹かれ桜の木は枝先をしならせ、ブワリと桜の花弁が宙を舞った。
「あ―…確かに毎年ここの桜は綺麗だよな。」
「でしょ―?何回見ても飽きないの!それどころか私、この桜吹雪が大好きなの!!どんどん好きになるの!」
桜歌は桜吹雪に包まれてクルクルと花弁と共に舞うように回りながら笑った。
「…………。」
「おい、緋桜。」
歩みを止め、そんな彼女をただ黙って見つめているといつの間にか秀弥が僕の隣へと立ち並んでいた。
彼女はまだ笑いながら桜を追いかけるようにして遊んでいる。この距離では彼女には僕たちの話声は聞こえないだろう、それを理解してか秀弥はけっして大きくはない声で喋った。
「……お前、さっき何考えてた。」
「……は…?何が。」
またもや嫌な音をたてて鳴る心臓を焦るような気持ちで隠すように問い返す。秀弥はそんな僕にちらりと視線をやり、もう一度問うように呟いた。
「…さっきだよ。桜歌が俺らを呼ぶ前だ。」
「……別に。」
「……別にって顔はしてねぇな。」
「………。」
するどいやつ、と考えながら僕もちらり秀弥に視線をやる。
「なんでもないって言ってるだろう。」
「………お前、また余計なこと考えこんでたんじゃねぇだろうな。」
黙ったまま無視を決め込もうとすると秀弥のが顔をしかめた。
「おい、無視すんな。」
「……別に…本当になんでもないよ。…少し、昔のことを思い出していただけだ。」
「……昔?」
秀弥がさらに眉をひそめる。
「ああ…、ちょうどお前に出会ってしまったころだよ。」
「出会ってしまった言うな、てめぇ。出会えたと言え。」
「嫌だよ。気持ち悪い。後悔してるしね。」
出会えたなんて本当、気持ち悪い。僕がもし万が一そんなこと言おうものならお前だって吐き気をもよおすだろうさ。
「…てめぇ…っ………ったく…まぁ、もうそれはいい。」
「良いんだ?」
「よかねぇよ!!……お前らが越してきた時のことだな?」
確認するように視線をあわせる秀弥に黙って頷き返した。
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