舞い上がる桜に紛れ込んだ

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呆けるように立ちつくして彼女のその微笑みと彼女を包む桜に魅せられる僕の横で秀弥も同じように彼女に見惚れていた。 そんな僕らに気付いた彼女がくるりとこちらを振り向き笑みを深めて微笑む。 「ね。綺麗だね。」 ほら見て、と言うように彼女は両の手をこちらに向け広げて微笑んで見せる。 その刹那、先程までの風が嘘のように一瞬だけピタリとやみ、そして次の瞬間にブワリと桜の木々を一際強く吹き、花弁を儚く散らした。 強い風に花弁が下から上へと次々と高く、空へ舞い上がり、それと共に彼女の髪もふわりと桜色に染まったかのように舞い上がり靡く。 「ほら、ひおちゃん。“桜の祈り”だよ。」 その余りの儚い美しさに見惚れる最中、桜歌は笑って言う。 その言葉がなつかしく優しい記憶のそれと重なる。 ――優しかった僕の母の言葉と。 …彼女が桜を見ながら優しく教えてくれたものだ。 「…“サクラの祈り”?…なんだ?それ。」 ようやく我に帰ったらしい秀弥が微かに首を傾げるようにして問う。それに彼女は嬉しそうに笑う。 「ひおちゃんは知ってるよね。覚えてる?」 「――…あぁ…、…うん…。覚えてるよ。」 今だって鮮明に覚えている、頭の中に響くように聞こえるあの時の彼女の言葉。 「あのね、シュウちゃん。桜はね―…」 笑って秀弥に教えている彼女の話を聞きながら目を瞑る。 『緋桜、桜はね―…』 忘れるはずがない、今もまだ僕を縛る僕自身の戒めを、心に決めたきっかけになった話なのだから。
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