一章

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噛み殺す素振りも見せず、くあっとまた欠伸をする。 「愛うるさいー静かにしないと嫌いになる」 眠いから少しキツイ言い方で言葉を発した次の瞬間、俺に愛が抱きついて声を震わせながら叫んでくる。 「ごめん!樹壱ごめんねぇ!だから嫌いにならないでぇー!」 ちょっとキツイ言い方が悪かったから愛が真面目な顔をして、それも泣きながら謝ってくるので俺の中で罪悪感が湧いてくる。 「きいちぃー」 捨てられた子犬に見える。首を傾げて涙目で聞いてくる愛が、犬みたいで可愛い。 「もう嫌いにならないって。俺もごめんな?」 罪悪感が先程から膨らむばかりな俺も謝り、腰に未だ抱きついている愛に少し呆れながらため息をつきながらも、頭を撫でながら少し困った様に笑いかけると、愛も笑顔を返してくれる。 俺はこの何気ない瞬間がひどく幸せだと思う。 「うん!ごめんね。樹壱ありがとー!もー、めっちゃ大好き!愛してる!ラブ!」 ・・・ここまでの愛情表現は要らないけど。
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