タバコ

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「あれ?雄輔タバコ変えた?」 いつもと違う煙の匂いに、珍しく敏感に反応した。 「あ、やっぱ解りました?」 火を付けたタバコをくわえて雄輔が振り返る。 雄輔の匂いじゃないけど、それは良く知った匂いで。 「もしかして俺と同じの?」 「ん、前一本貰った時気に入っちって」 じゃーん、という効果音付きで目の前に差し出されたのは俺と同じ銘柄のタバコ。 「真似すんなよー」 「いーじゃないですかっ」 笑顔で言う雄輔に、ちょっとした疑問点。 俺、思い出しちゃった。 「雄輔さ、前に俺のタバコ吸った時マズイって言わなかったっけ?」 「い、言ってませんよ!!」 解り易さは断トツ一位。 俺の可愛い恋人は随分素直だ。 雄輔は、嘘をつくのがかなり下手。 「何でわざわざマズイのに変えた訳?」 「俺は味より匂いジューシなんですっ」 「匂い、ねぇ」 変に納得しそうになった時、楽屋の扉が開いた。 「おはようございます…って雄ちゃん、又タバコ?」 入って来たのは直樹。 呆れたように雄輔を見て、今日何本目ですか、なんて奥さんみたいなこと言っちやってる。 「あんまり吸ったら体に毒ですよ?」 「んー…」 「雄ちゃん?」 「んー…解ってるってば」 欝陶しそうに返した雄輔に、直樹の表情が変わった。 満面の笑み、だけど何か黒い。 「今剛兄、隣にいるのに吸う必要ないでしょー?」 「!!?」 「剛兄が恋しくなるからわざわざタバコ変えて同じ匂いにしたんですからねー、雄ちゃんは」 「ノク!!!!」 「じゃあ僕、フジモンさんとこ行って来ますね。収録までには戻りますから」 雄輔の反応に満足したのか去って行く直樹。 雄輔はと言うと、真っ赤な顔で震えちゃってる。 あ、可愛い。 「ノクの馬鹿ぁあー!!」 「こら、兄ちゃんが慰めてやっから馬鹿とか言わないの」 そう言いながら抱きしめてやると、ビクリと跳ねる体。 「マズイって言ってたタバコに変えちゃう程、ベタ惚れされちゃってるってことだよね?ボキって幸せ者だわぁ」 「うー…」 「本当のことでしょ?」 「…そーですけど」 「今のうちに俺の匂い、ちゃんと体に付けときな?そしたら無理してマズイやつ吸わなくても大丈夫っしょ?」 「…つーのさん、」 「ん?」 「…汗臭くなりそうなんで離して欲しいんすけど」 「……………」
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