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駅舎の前には、線路に沿う形で走る舗装道路がひとつあった。
それも、車のすれ違いは出来るが中央線は必要ない、くらいの道路だ。
両側は田んぼで、道路にはうじうじと雑草が進出してきていた。
とりあえず、来た方向に歩くことにした。やはり最終的には知っている土地まで戻りたい。
ぶらぶら歩きを開始すると、途端にいろんな音が聞こえ始めた。
どこかで鳴いているスズメ。キジ。サギ。他にも名前を知らない野の鳥たち。
田植を終えたばかりの稲の葉ずれ。用水路の水音。
水田を挟む山々の木が鳴っている。狸や猪がいるのかもしれない。
でも人間はいない。
私は、ほぅっと息を吐き出した。
重い何かから、解放される感動に似た喜び。
海に沈むヘドロのようなもので、何気ないようでいて、心に負荷を与え続けていた何かに。
人がいないとは、なんと素晴らしいのだろうか。
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