よそびと

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青年は、舗装道路からひょいと外れて、田んぼの畦道に立った。 「こっちが近道なんよ」 何やら冒険みたいだ、と私は思った。 太陽に向かって真っすぐ伸びた草を踏み倒すと、ぴんぴんと虫が逃げ惑う。 悪い事に、ほんの少し手を出した時の、わくわくするような快感が生まれた。 畦は狭くて並んでは通れず、二人は子供の探検隊ごっこよろしく、縦列で歩いた。 広い広い水田を横切ると、山とも林とも言えない木々の広がりに突き当たった。 田と木々を区切るように細い川が流れている。 ザリガニでも捕れそうな、暗くてでこぼこした川だ。 その湿っぽい涼しさに惹かれて、じっと眺めているとどこか見覚えがあるような気がしてきた。 そういえば、保育所の夏の散歩でよく来た川に似ているような。あの特徴のないベッドタウンに引っ越す前のことだ。 まじまじと見つめると、なおさら記憶と合致するようである。水路の周りだけを切り取れば、そのもの、と言えた。
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