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突き出された手を、私はじっと見つめてしまった。
ふくよかで、土でしわが茶色く浮き出ている手。知らない男性の手。
人との接触を避けてきた私にとって、他人の手を取ることは全く未知の領域だった。
未熟な私の頭に浮かぶのは、手を取り合う恋人達の像。
たかが手を貸してもらうだけで馬鹿か、と常識がため息をついているが、私は彼の手を握るとき、本当にドキドキした。
ぐい、と力強く引っ張り上げられ、足を滑らせながらも私は対岸に着地できた。
「……ども。すいません」
「うん」
青年は応えると、行こうか、と私をうながした。
私は、自分の体温ではない温かみを帯びた手を冷やすように、わざと腕を振って歩いた。
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