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私は、取って返して別の電車に乗った。
オツ行きの電車があるわけじゃないけれど、『これだ』とわかった。
最新の色付き車窓から見ると、夕日は弱々しいレモンイエローでそこらじゅうを染め上げて、それは私にも差しかけてくる。
ぷるるるる。
電車が出発する。
2両編成の電車に乗客はほとんどいない。
買い物帰りのおばさんと、スポーツバックの高校生と、大学生っぽい男の子と。
私は目を閉じた。
いつ着くか分からないし、着いたら目が覚める。
電車の止まる軽い衝撃で、目を開けると、本当に見覚えのある景色が広がっていた。
低い山、水田。
私が降りると電車は走り去った。もちろん乗客はなし。
どこへ行くんだろう、などと、私がぼんやり赤い車体を見送っていると、
「あのー」
と声がかかった。
私はホームに人がいるはずがないと思っていたので、飛び上がってしまった。
一瞬、彼かと期待したが、見ると、先ほど見た大学生の男の子だった。
私がそんなに驚くとは思ってなかったらしく、真ん丸な目でこちらを見ている。
「あ、えーと、すんません」
流行のチェック柄のシャツと軽くはねた茶髪。爽やか好青年、というタイプだ。
「寝てたら乗り過ごしちゃったんすけど、ここ何処ですかね」
どうやら1回目の私と同じ境遇らしい。
てっきり迷い込むのは私だけと思っていたが、そうでもないようだ。
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