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前回の自分の困惑を思い出し、彼が少し気の毒になった。
「オツっていう……村?です。反対のホームにいれば、そのうち電車来ますよ。そう岐阜から遠くないですし」
ある意味とても遠いけど、と心の内で付け足す。
そうすか、どうも、と言いながら彼は動かない。
それどころか、完全に世間話モードで話しかけてくる。
電車がくるまで私を付き合わせるつもりだ。
時々、こういう人はいる。独りが苦手で何でも誰かとやりたがる。
過度じゃない限り、こういう人は誰からも可愛がられるのだ。
つまり、私と正反対。
「えーと、この辺の人なんですか?」
「いえ、違います」
「じゃあ、知り合いがいるとかすか?」
「まあ、そう……です、ね」
「あれ。あんま仲良くないんすか」
「いや、仲良いっていうより、お互いを知らないっていうか……」
「ふーん?」
何でも正直に答えてしまうのは、私の悪い癖だ。
青年は明らかに興味を持ち、突っ込んでいいものか計っている。
「……」
こういう時、孤独癖で着いた壁は役に立つ。
私の無表情に彼は軽く恐れをなしたようだ。
「そういや、電車っていつ来るか分かります?」
青年はすばやく話題を変えた。
「さあ。知らないです」
「ええーっ、じゃあタクシーとか呼んだほうが早くないっすか」
呼びたければ呼べばいい、と思わず心の中で毒づいてしまった。
私はまだ帰るつもりはないし、戻りたいのは向こうの勝手なのだから。
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