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しかし、彼はそういう気はないようだ。
「お姉さんは、いつ帰るんすか?タクシー代ワリカンしません?俺、あんま金なくって……」
「え……それは、ちょっと。いつ帰れるか分かりませんし」
「いっすよ、全然!暇なんで、いくらでも待ちますよ」
彼は私が遠慮した、と捉えたようだ。
違う。
私はひとりで帰りたいのだ。彼と親しくなって、人付き合いの輪を広げたくない。
「や、でも……」
私が何とか言い訳しようとしたところで、視界に異物が増えた。
「ん?」
目を凝らすまでもなかった。
”彼”だ。
ずんぐりとした体型。のんびりとした歩き方。
向こうも気づいたらしく、いかにも朗らかに手を挙げた。
こっちの彼も気づいたらしい。
「あ、あの人がお知り合いすか。よかったっすね、早く用事が終わりそうで」
やれやれやっと帰れる、といった感じで言うので、私はムッとして思わず言い返してしまった。
「そんな、立ち話で済む用事でわざわざ来るわけないじゃないですか」
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