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私が急に声を荒げたので、学生らしい彼は少し恐れをなしたようだった。
でも、これで諦めて一人で帰るだろう。
私は、無人の改札を抜けて、『彼』のほうへ向かった。
「ひさしぶり」
彼は、ポロシャツにスラックスという、おじさん散歩スタイルで、朗らかに言った。
「ども」
こうして対面してみると、やはり普通の田舎の青年に見え、何だかもの凄くおかしなことを考えているのではないか、と不安になる。
さっきまでは、あの変な悪夢の原因はオツだと信じて疑わなかったが、別に関連性は無く、ただの直感なのだ。
だからこそ、信憑性があるとも言えるが。
「また来ると思っとったよ」
彼は嬉しそうに言う。
「どうして?」
私は素気なく返した。
男の声に、以前よりほんの僅か馴れ馴れしさが加わっていて、それが私をイラつかせた。
しかし、すぐにそんな低俗な考えは、場に不似合いだと気づいた。
「影がついとる」
彼は言った。
笑っているのに、目が真剣だ。
ぽったりしたまぶたの下にある瞳が、意外と力強く鋭いことに、私は初めて気が付いた。
「放っといたら危ないよ。大きくなったら、『囲われ』てしまう」
そう言われて、ふっと夢の場面が過ぎった。
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