招くゆめ

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そうか、アレは私を捕らえようとしていたのか。 「治る?」 「病気じゃないでねぇ……」 うーん、と困り顔をして彼は唸った。 拉致の開かない沈黙。 その時、 「あのー、なんか問題発生してます?」 ひょい、と学生君が顔を割り込ませてきた。 てっきりホームで電車を待つのだと思っていたが、この男はどうあっても独りで居たくない性分らしい。 屈託なく、申し訳ばかりの遠慮をにじませた声が、いい加減、私の中でうっとうしさに変化しつつある。 『彼』の方は、驚きで目をしばたたかせている。 さっきまで、学生君はプラットホームにいたので、駅舎に隠れて存在に気付けなかったのだろう。 「どちらさん?」 「知らない。同じ電車に乗ってた人」 「あ、名乗ってなかったっすね。俺、健一っていいます」 愛嬌を振りまく健一に、彼は私に向けるのと変わらぬ、柔らかい笑みを返した。 「俺は友晴だよ。健一君はなんでオツに?」 思わぬ事で彼の名前を知ってしまった。 出来れば、一生知らないままがよかったのに。 しかも、一応『彼女』である私を差し置いて、彼に名乗るか。 健一君なる彼は、寝過ごしちゃって、などと笑っている。『彼』もとい友晴は、のんびりと微笑した。 「んー、やっぱり健一君が来たのも、何か必然性があるのかなあ」 「えっ、それって運命とかすか。友晴さんってロマンチスト?」 「いやあ、運命かあ。それとは違うなー」 「気になるなあ。オレ、何か関係してるんすか?」 何だか、急に会話がアップテンポになってきた。 若者の会話は大縄跳びみたいだ、と思う。 ビュンビュン回り続けている縄に、素早くタイミング良く入らなければならない。 常にマイペースで生きている私には、プレッシャーかつ非常に困難だ。
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