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しかし、駅に着いた途端、柔らかな陽光は全く関係の無いものになる。
ベットタウン化したこの辺りは、名古屋へ出勤・通学する人が多い。
混む、という言葉には足りないが、空いているわけではない。どこにいっても人がいる、というのが嫌でしかたがない。知り合いに見つかる確率が高い。
見つかりたくないのは、もし何かの折に「そういえば、この前アイツ見かけたぜ」的な物笑いの種になりたくないからだ。
私は噂話がひどく苦手だった。
知り合いのいない車両を選び、人と対面しないような立ち位置を陣取って、人混みや荷物の重さといった不快なモノたちに耐える。
乗換駅で人がどっといなくなると、ようやく私はすみっこの席に腰を下ろすことができた。
バックの肩紐が食い込んだ肩を軽く回す。
ここから後1時間。
人はまた増えるだろうが、さっきほどにはなるまい。
私は安心して昨日の文庫本を取り出し、目を落とした。
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