1、介入者

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 ミレア千年樹を中心に白色の樹々が立ち並び、花卉は乱れ、獣が走る。『白い森』と呼ばれるその森に、灼熱が渦を巻いてうねっていた。  白い森の近辺、アルランド王国。人口数万人の都心部シリアは、要塞都市として名高い。  『アルランドの壁』と称された巨大要塞は、至る所から火の手や黒煙が上がり、今や栄華の片鱗すらうかがえない。空は火花を散らし脈打つ黒雲に覆われ、薄暗く影を落としている。  白い森を呑み込む巨大な炎。森を、空を、大地を灼く。焼き尽くす。劫火が踊るその上で、轟き落ちるは眩い雷。 「また一つ、戦争が終わりましたね」  喜ばしいことです、と微笑んだラヴィが、風に靡く自身の銀色の髪をそっと撫でる。薄桃色の無垢な瞳が、眼前に繰り広げられる惨劇を映している。  その横で巨石に座り、震える体を両手で押さえながら、セラフィナが、剥き出しの心臓を宥めようとしていた。彼の胸元にはぽっかりと穴が空き、透明な膜がその心臓を覆っている。  彼の鼓動は、頭上を埋める雷鳴と稲妻に共鳴するように、この戦争の終わりを表していた。 「『我々は愚か。我々は塵芥。我々は終焉を呼ぶ、戦争の覇者』――。セラフィナ、これが私達の定めでしょう?」 ラヴィが優しく囁いた。その声は、まるで何事も無かったかのように穏やかで、女性的な甘い声色だった。 「……わかってる。これが僕の……僕たちの仕事だ」  セラフィナはそう呟くと、膝の間に顔をうずめた。その耳に、本当にわかってるの? と問われた気がして、彼は一層憂鬱になった。 「号外! 号外だよ! ニケリアとアルランドが陥落した! またしても『介入者』の仕業らしい、ほら、号外だよー!」
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