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ヴァンサー?おかしいな。魔機物はガーランとサリウスしか存在しないと思っていたんだが。
彼も眉をひそめて話を聞いている。
「兄ちゃんよ、古代生物(エルドクリーチャー)は知ってるか?」
「あぁ、多少なりとは。ドラゴンとかキマイラとかのことだろ?」
「そう。上級魔生物(ハイマリネオ)にはたまにそいつらの遺伝子を持つ奴らがいてな」
「…………」
彼はそれを知っている。実際に戦っている現場を私自身が目撃しているのだから。
「そいつらの骨から錬成して造り出したのがヴァンサーってんだ」
「おっさん、随分詳しいんだな」
「アルケミストを30年やってたらよ、知らない方が恥ってもんさ」
この人間は自分という存在に自信と誇りを持っている。
私はどうだろうか。そうやって自問するまでもない。曖昧で不透明な存在。これはまるで影だ。暗闇を歩む時は見えなくとも、何か明確な物に照らされると際立つ。
「……は?」
不意に自分の頬っぺたが指でつつかれる。こんな事を私にするのは彼しかいない。案の定彼は嬉々としている。
「ま~た暗い事考えてる?あ、もしかして俺がかまってあげてないから拗ねてるとか」
後半は冗談で言っているんだろうが、どうやらまた彼に気をつかわせてしまったようだ。
「……じゃあ甘えてもいいの?」
これでいいのかわからない。でも多分こんな感じだったような。
「は、あ……え?」
彼は予想外な反応に少し慌てている。ギャップというものに弱い事はこの一年半で学んだ。
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