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「それで、あの、ユースケ君」
「ん?」
楓はうつむき加減に、なんか恥ずかしそうに言う。
「明日、よかったら買い物に付き合ってほしいなって、思って……だめ、かな?」
これは……デートのお誘いと受け取ってもいいのか? だって上目遣いで頬を赤くして手をもじもじさせてるんだから。
手、と言えば、楓の右の中指と薬指にはいつの間にかリバテープが貼ってあった。
「買い物くらい、いつでもいいよ」
妹よ、交際三日目にして初デートになりそうです。なんて考えてみた。いや実際にそんなことを言ったら、かなり面倒なことになるんだけれど。とにかく嬉しい……のか? 俺は。
「約束だからね?」
「うん」
言って、さっさと背を向ける。なんか恥ずかしい。ドアノブに手をかけると、また呼び止められた。
「待ってユースケ君」
「え?」
なんなんだよ、いったい? 振り返ると、楓の顔が一瞬で近づいて髪が揺れて目を閉じてる楓の顔で俺の唇になにかが重なってやわらかくて……。
頭が真っ白になった。
キス、か?
楓は顔を赤くしてまくし立てた。
「お、送ってくれたお礼がまだだったから、あの、今のが初めてなんだからね?」
そして楓がドアを開けて、俺の背中を押して外に追い出した。
クーラーが効いていた部屋から外に出されたから、余計に暑く感じる。あー、日差しもつよいもんね、うん。それより明日はデートだ、あはははははは……。
バタン、と後ろでドアが閉じる。追い出されたよ、あははははは……。
今日も仕事に行ってるお父さん、楓にキスをされました。って、心の中で報告してみた。
予想と違ってキスに味はなかった。それもそのはずか、唇と唇が重なっただけなんだから。
空はバカみたいに青かった。
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