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2 残された弟
原色の作業ズボンのポケットから小さな振動を感じ、オレはポケットの中身を取り出した。
何年か前に仲間のみんなと借りたポケベルが、バイブしていたのだ。
液晶を覗くと、小学校からの友達紗弥加だった。
『今日、行クネ サヤカ』
オレの家は小学校の頃から3つ年上の兄貴と二人で市営住宅に住んでいたから、よく溜まり場になった。
家庭の事情ってやつで、オヤジが死んでから初めは母親と3人で生活してたんだけど、母親の再婚時に、兄貴が反対したことから、おれら兄弟二人は家出というか、親に捨てられたというか・・・。まあ、兄貴が環境の下請け会社で働いてるおかげで、とりあえずの生活をしていたのだけど、中学を卒業してからはオレも建築関係に就き、それなりは収入もあった。
「おーい明良、いつまでさぼってんだ?」
親方が組みかけの足場から、大声でオレを叫んだ。
やべっ、仕事中だった・・・。
あわててベルをポケットにしまい、仕事に戻った。
紗弥加はもちろん、他に友則に美奈。それから中学から仲良くなった静香に俊二の4人のうちの誰かは今でもやってくるので、5人そろうことは少なくなったものの、オレの家は毎日来客があった。特に卒業と同時に兄貴と付き合い始めた静香なんか毎日だぜ、毎日。そりゃ、兄貴はかっこいいし、優しいし、強いし、惚れるはよくわかるけど・・・。
毎日、毎日兄貴も飽きないよなあ・・・。しかも、毎夜毎朝ベル打ってるし、そんなにLOVELOVEしたいもんかな?
まあ、そのおかげで、静香と同じ公立に通ってる紗弥加も結構頻繁に家に来るのは、オレにとってはうれしいけど・・・。
いつ頃からだろうか?
幼なじみの域を超えて、紗弥加がオレの心に入ってきたのは?
気づくと、あいつだけは仲間の中で一番大切な存在になっていた。
生意気そうな目で睨まれた時が、かなりかわいいんだよな。
だから、ついつい、あいつを怒らせようとして、いじめてしまうオレってもしかして、小学生的恋愛感覚なのかな?
でも、いつか紗弥加も静香みたいに誰かと付き合ってしまうのかな?
そうなったら、オレはどうなるんだろう?
いっそ、告ってしまったほうがいいのか?
でもフラれたら、なかなか合いにくくなりそうだし・・。
そうこう、グダグダ考えてる間に、仕事が終わった。
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