月の出た晩に

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ウサギはピアノを弾くのが大好きでした。 森の中にある古ぼけた一台のピアノ 嬉しい時 悲しい時 心に何かモヤモヤを抱えた時 そんな時にこのピアノを弾くのでした。 ある日ウサギは綺麗な月が出た晩に いつものようにピアノを弾き始めました。 すると、どうでしょう 今日はいつもと何かが違ったのです。 白鍵はまるで月光と共鳴したかのように輝き 黒鍵はまるで夜気を吸収したかのようにその黒さに深みを増したのです。 そして、 ウサギが気が付くと いつの間にか 虫たちがメロディを奏で 鳥たちが愛を唄っていたのです。 ウサギは嬉しくなりました。 そして、 恐くなりました。 いずれこの楽しい時間が終わることが恐くなったのです。 ウサギは考えました。 (そうだ、時間さんに頼んで今この時を止めてもらおう) やがて 月は姿を消し、 虫や鳥が唄うのを止めた時 ウサギは時間さんを探しに行きました。 色んな所を探しました。 リスさんのお家 池の中 ヘビさんのトイレ 本当に色んな所を探しました。 そして、ついにウサギは時間さんを見付けたのです。 ウサギは時間さんがとてもイジワルなことを知っていました。 早く過ぎて欲しい時はゆっくり流れ ゆっくりしていって欲しい時は早く流れていく ウサギは慎重に時間さんに頼みました。 「俺は切り刻まれるのが嫌いなだけだ、そうじゃない願いごとならいつでも聞いてやる」 時間さんはあっさりとウサギの頼みを聞き入れてくれました。 ウサギはワクワクしました。 (ずっとあの楽しい時間を味わうことが出来る。) くる日もくる日もあの日の繰り返し 全く同じ日々を繰り返してます。 ウサギは感じました 全く同じ日にも関わらず 段々と輝きが失われていくのを そして気付いたのです。 永遠の中には幸せなどないことを しかし、それが分かってもウサギにはどうすることも出来ませんでした。 ウサギにはあの日と同じピアノを弾くことしか、 時間さんを再び探しに行くことなど出来ないからです。
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