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「千姫さま、こたびもよろしくお願い申し上げます。」でっぷりと太った男が大きな箱を持って跪いている。見たところ、箱もけっこうな値打ちのするものだ。ここで断るとまた父に小言をもらうだろう。
「どうか、どうか、我が娘の命を救ってくださいまし・・・!」
あぁ、うるさい。これは私から良い返事を得られるまで、帰るつもりはないだろう。仕方ない・・・。
「わかりました。やりましょう。」
男の顔がはっと上がり、肉にまみれた、口が動く。気持ち悪い。
「あ、有り難うございますっ!いくら感謝しても足りませぬ。」
これでかえるだろう。娘の話は一応というくらいでいい。
「用事が終わったなら、早く立ち去りなさい。私は疲れているの。」
「申し訳ありませんでした!それではこれはお納めくださいますよう。」
そういうと、男は去っていった。
「姫さま、こたびもお請けになったのですか?近ごろしっかりお休みになられた日がないではありませんか!」
端にある几帳の裏から、早足ででてきた彼女は幼い頃から、一緒にいる女房で名を早苗という。唯一掛け値なしに、信じられる人間だ。
「仕方ないわ。こんなふうに生まれてしまったのだもの。」
私は生まれてから一度も屋敷から出たことがない。
「姫さまあなたが魂呼びをするからといって、お父上の言いなりにならなくてもいいんですよ!」
早苗は私が幼い頃屋敷に来た前の主からどうしてもと頼み込んで女房に着かせて以来私のためだけに動き、どこで身につけてきたのか、忍の技にも通じるもので私を守ってくれている。
「大丈夫よ、私は。それに父様もお客様は選んで下さっているようだし…。」
「それでも最近ちょっと多いと思いますけど…。」
周りに気を凝らすと、少なくはない女達が心配そうな視線でこちらを見ている。それらは、全てこの屋敷で働いている者達だった。
「皆もこのように心配しているのです!あの魂呼びの儀式がどれほど体力気力を削るのか、あなた様が一番ご存知のはずです。どうか、お休みください。」
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