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「おはよう。秋ちゃん」
人影がキッチンに入ってくるのと同時にそう声を掛けた。
その人こそ私の兄の、
柿崎 秋哉(かきざきしゅうや)なのだが、
今日は相当疲れているように見えた。
「おはよう」
微かに笑みは浮かべているものの、
秋ちゃんの整った顔がいつもの精彩を欠いているようだ。
それでもそんじょそこらの男性には決して負けない、私の自慢の兄である。
「昨日遅かったね。
仕事何時におわったの?」
「んー、2時くらいかな。
あ、夕飯ありがとな。
うまかった」
「お粗末様です。帰りに友達と飲んでくるかな、とも思ったけど、食べれたならよかった。今日も遅くなる?」
「あー、詳しくは鈴本君に聞かないとわかんないんだけど、そんなに遅くないはず。あ、だからってこの前みたいに待ってるなよ。
もしかしたら長引くかもしれないから」
「うん。わかった、待ってる」
そう言うと秋ちゃんは、すこし(というかかなり)呆れた笑みを浮かべた。
「今日は何時に出るの?」
「え?・・・あ、」
一瞬の思考のあと、たった今思い出したかのように窓に向かい外を覗き込んだ。
「秋ちゃん?」
「ヤバ。鈴本君もう来てる。ごめん、もう行くな」
そう言うなやいなや、テーブルの上のカップの中身(もちろんまだ砂糖もミルクも入れてないブラックコーヒー)を一気に飲み干した。
「あ、秋ちゃんそれ…っ」
「苦ッ」
「でしょうね」
秋ちゃんは、渋い顔をしながらトーストをくわえた。
「いってらっしゃい」
部屋を出て行こうとする背中に声をかけると、手を軽く上げてから、急いで出掛けて行った。
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