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小学5年生、11歳の時、
私と秋ちゃんの生活に大きな変化が訪れた。
秋ちゃんが芸能事務所にスカウトされたのだ。
もともと顔の造形は、私達…特に秋ちゃんは人並み以上に恵まれていたので、都心部に出掛けるとよくあることだったのだが、その時はいやにしつこかった。
秋ちゃんの方も、いつもよりかなりはっきりと断ったのはずだったが、スカウトマンはよほど秋ちゃんを気に入ったのだろう、本当にしつこく食い下がってきた。
紆余曲折はあった、が、
結局話を引き受ける運びとなった。
理由だが、
有り体に言えば、
秋ちゃんはこの時お金に困っていたのだ。
それは他でもなく私のことで。
高校進学…世間では半分以上の人が、至極当然のように享受していることだが…
決して、タダなんかではない…
私は中学をでたら働くと、常日頃から言っていたのに、
秋ちゃんはそれを良しとはしなかったのだ。
私も働くから無理して引き受けなくていいと言う私に
秋ちゃんは、
「俺は、自分のエゴで進学をしなかったんだ。でもそのかわり、麻冬が俺の分も学校に行って欲しい。お金のことは、お前が心配することじゃない」
と、そう言った。
一体何がエゴなのか、どこが心配することじゃないんだ、と
私のためなんかに自分を犠牲にし続ける秋ちゃんに
この時はじめて、愛しさや感謝を通り越して腹がたった、
しかし、
いつも以上に真剣な秋ちゃんの瞳に、揺るがない強固なものを感じて、私はいろんな感情も言葉も飲み込み、ただ頷いた。
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