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「ちょっ……、肩っ! クモ!」
動揺のあまり呂律が回らず、言葉が文章にならない。アイオンの肩の上に現れたのは、彼の顔ほどもある特大の白い蜘蛛だった。
「ああ、こいつはシュガーボールタラントのハリー、俺様の相棒だ」
「クモが相棒だなんて、正気!?」
「失礼なやつだな。こいつはこう見えても力持ちで頭もいいし、人懐っこくて可愛いのに」
アイオンが頭を撫でると、ハリーは喜んでいるのか口をパクパクと動かした。
「もふもふ……。うふふ、よろしくね」
人を盾にしてまで逃げた翔子とは違い、盾にされた蓮美のほうは平然とハリーを撫で回し、握手まで交わしている。
「翔子とも握手したいってさ」
アイオンが翔子に手招きをする。彼にはハリーの言いたいことがわかるようだ。
「絶対に嫌! 死んでも嫌!」
ハリーはアイオンの肩を越え胸を這い、ジャケットの身頃に頭をねじ込んだ。ビリケンの頭のように先端が少し尖った尻と数本の足だけが見えている。
「あーあ、おまえのせいでスネちまったよ」
アイオンが服の上からハリーの頭の辺りをチョンとつつく。ハリーは嫌がるように尻を振った。
「知らない」
翔子は頬を膨らませ、そっぽを向く。
こうして結局、翔子はアイオンに礼を言いそびれてしまった。
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