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部屋に戻りシャワーを浴びる事にした。明日は休みで午前中からユカと出かける約束をしている。
ただの公園と言ってしまえばそれまでだが、この時期なら花もいっぱい咲いてる様だ。
残念ながらヨウスケもユカも家や職場の回りにはあまり緑がない環境だった。
ただ単に遊ぶ事はいつでも良いが、良い天気の日に緑を堪能するなら、今の時期が一番であろう。
幸い明日は晴れるらしい。ヨウスケは寝る前に声を聞いておきたい、と思った。
ヨウスケはシャワーから上がり、寝る支度を整えていると、突然。
―インターホンが鳴った―
『ピンポーン』
こんな時間に何だろうか。時刻は21時を超えている。
「…はい。」
この様な時間帯に訪ねてくる人間に良い奴はいないだろう。
もしも、知り合いだとしたら事前に何かしら連絡を入れてくるだろう。
警戒と威嚇を含め、出来る限り不機嫌そうに出る。
「はぁ…はぁ…。」
インターホンのモニター越しには人がいない。否、よく見ると画面の下の方で頭頂部が上下している様だった。
どうやら息を切らして膝に手をついている状況のようだ。
「…もしもし?どちら様ですか?」
息を切らしていた様子なので、数秒置いて問いかけた。
インターホン越しの人物は汗を軽く腕で拭いながらゆっくり顔を上げた。女性であったが、それよりも、
「ヨウちゃん…久し ぶり。」
ようやく画面に向いたその顔は…。
細めの輪郭、切れ長の目に、ややつり上がりの眉、小さい鼻に、小さく薄い唇、揃えた前髪に、横に一本で結ったストレート。
時は流れ、大人っぽい顔つきにはなっているが、忘れる訳がなかった。
「ハ…ハル?!」
そこにはあの日以来会う事も連絡もなかった、親友のハルがいた。
「はぁ…はぁ…。こ、こんな時間に突然ごめんね。入ってもいいかな…?」
拒絶するわけがなかった。自分も聞きたい事が山ほどある。
「分かった。」
すぐにマンションの入り口を開ける。すると、一分も待たずにチャイムが鳴った。
ドアを開けるとハルはすぐに入り、玄関にへたり込んだ。
「ご…ごめんね。はぁ…はぁ…。た…ただいま。」
ハルはへたり込み必死に息を整えようとしながらも、ヨウスケを見上げて笑顔で告げた。
「お、おかえりなさい。」
―あの時から止まった何かの歯車が、カチリ、と音を立て、急速に回り始めた気がした―
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