第二章:異変

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「どしたん、顔色悪くね?保健室でも行くか?」 平気。大丈夫。無問題。 私は即座に普段通りの表情を取り繕い、アヤメに今の心情を悟られない事に徹するようにした。 タチの悪い夢だと思いたい。 悪夢ならば、覚めてほしい。 そうこうするうちに、教室にたどり着いた。 全校朝礼の間も、一限目の英語の授業の間も、二限目の化学の授業の間も、私はふさぎ込んでいた。 もしかすると、今朝二度寝する前に月曜日に登校するという内容ね夢を見ていたのか、とも考えた。 だが、そうだとしても、合コンの相手の特徴をああも的確に当て嵌まるという、都合良いことが果たしてあるのだろうか。 俗に言う予知夢というものなのか。 駄目だ、論点が飛躍し過ぎて自分を見失いつつある。 自問自答は止めだ、少し落ち着こう。 私はアイドリンクをすることにした。 アイドリンクとは、自己を見つめ直し平静を保つための暗示行為である。 (CO2を減らすため一時期とある権力者どもが流行らした自動車の排気ガス削減運動から作ったマイ造語でもある) 三限目は、体育である。 それなりに身体を動かす事が好きな私だが、今日はそんな気分ではなかったし、今運動したところで体力が削がれ疲労が蓄積するだけだと思う。 そう考えた結果、皆がバレーボールに勤しむ間中、私はコートの外側の片隅で三角座りで待機を決め込むことにした。 旬を半ば過ぎたであろう流れる春風が涼しい。 静かに雅な気分に浸れるならば、花見も悪くないかなとも思う。 「オラオラオラぁ!脇が甘いんだよ脇がよー!!」 バスッ ドカッ グシャッ、と。 アヤメがクラス対抗試合において、一昔前のスポコン漫画に出てくるような殺人スパイクを連続で繰り出し、コート内が死々累々たる光景すら、愛おしく感じられた。
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