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彼の名前は牧原青葉、という。
半々に分けられた艶の良さそうな前髪、男子にしては少々長めのセミロング。
頭髪もそうであるが、身の着こなしがとても小綺麗で、清潔感が漂っている。
私達が通っている澱川商業高校(通称はヨドショー高)のダサい制服すら、彼が着ることによって恰好良いものに見違えるほどなのだから、容姿に関しては五つ星といったところか。
が、着目すべきはそこに在らず。問題、というか私が気になるのはその点では無かった。
女の自分から見ても端麗なる外見なのに、あろうことか彼はクラスメイトと全く接触するそぶりがないのだ。
かくいう私も、それなりに一匹狼を気取ってはいるのだが、ある程度の人間関係は仕方なく作ってある。
掃除当番で一緒になる・グループワークで共同作業をする・課外活動(遠足や社会科見学)で同じ班になるetc.
悲しいことに、多少なりとも潤滑さがあらねば学生生活を謳歌するのに支障をきたしてしまうらしいので、私もその郷に従う口であった。
しかし彼の場合はそれが皆無であるのだ。
かといっていじめのような迫害を受けている訳でも、ないのだ。
こんな稀な人間に興味を持たない人間がいようか、いやいまい。
思わず反語表現を使ってしまうぐらいに、牧原氏は興味の対象である。
「でもさー、あの子暗いっつーか、あんま喋ってるトコ見たことないんだよねー」
キラキラと光るビーズやら何やらのアクセサリーをじゃらじゃらと垂らした鞄を肩に掛けながら、アヤメが近くにやってきた。
「それとも何か?アンタにもついに惚れた相手が出来たとか~~ぁん?」
にたにたした微笑をしながらそう問われたが、全くその気はなかった。
あれだよ。
猫が好奇心で高い木に登って降りれなくなったり、水面に映った自分に向かって飛び込んでいったり、寒いから暖めようと電子レンジに入れてチンしてアレな事になったりするでしょ。それと似たようなもんだから。
「なんだ残念。ところで最後の一つは明らか人為的だからニアミスってことでオッケー??」
してやったりの顔をされたが、突っ込む場所はそこではなくて。
アヤメさん、あなたやっぱり漫才ならばボケ専門だよ。
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