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早乙女ヒビキ。
最高学年にして、学内では生徒会長を務め、部活動では剣道初心者にして高校生全日本大会準優勝、学力もトップクラスの成績を持つ文武両道な完璧超人。
父は警視庁勤務の重役であり、一昔前までは伝説の歌手として世間に名を知らしめたあの久藤鏡火を母に持ち、三人兄弟の次男にして家庭も円満だという。
全て、彼本人の口から無理矢理聞かされたことなのだけれど。
「いやぁ、にしても今日の三限の体育の時間はとても刺激的だったよ。
何せハニーの体操服姿を見掛けることが出来たのだからね。
三角座りでコートの隅に佇むハニーの出で立ちの前には、月にいるかぐや姫だって嫉妬するに違いないね」
得意満面に身振り手振りを加えながら私を褒めるヒビキさん。
校内屈指の優等生がこんな所で何を演説しているのかと、下校途中の生徒達はチラ見したりコソコソ話したりしながら遠巻きにこちらを観察していた。
………
………
物凄く恥ずかしいし、ガチで言っているのだろうから余計にタチが悪い。
もうそろそろ我慢の限界であったので、私は徐に返事をした。
あの、早乙女先輩。
「やっと反応してくれたね。で、どうしたんだい?」
台詞長いし痛いし寒いしぶっちゃけ迷惑です。
ウザいんで5秒以内に消失してくれませんか。
「………」
絶句するヒビキさん。
思った事をそのまま伝えたら、場が凍りついてしまった。
「…ははっ、手厳しいなハニーは。では、今日はここらでお開きにさせて頂くよ」
でも数秒したら立ち直っちゃうんだよね。
打たれ弱いようでメンタル強いのが彼の特徴であり、空気を読んで長居しない点だけは好感が持てた。
嘘です。言い過ぎました。
私みたいなのに毎日お声をお掛かけ頂いてありがとうございます。
では、さようなら。
少しのフォローと別れの挨拶を済ませ、その場を後にした。
暮れなずむ夕焼けを眺めながら、私は考える。
ヒビキさんは、どうして私にいつも関わってくるのだろうかと。
世の中には分からない事が多すぎる。
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