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「おい、これ……」
そう言って、夕食の支度をしている妻に包みを渡す。
「あなた、これ、どうしたの?」
驚くのも無理はない。
結婚してから妻にプレゼントしたのは、片手で数えるくらいだから。
「いや、たまにはと思ってな」
妻が包みを開けると、あまり高級とはいえない指輪が。
しばらく指輪を眺めた妻は、再び夕食の支度を続けた。
台所は毎年同じ鯖味噌の香りに包まれていた。私にはそれが心地良かった。
趣味のない男だから、小遣いなんか使わない。この先も使わないだろう。
だから妻に還元してもいいだろう。
気が付くと、妻が肩を震わせている。
「……泣いているのか?」
「……ほうれん草が目にしみただけよ」
つまらぬ男とつまらぬ女。
少しだけ、つまらぬ夫婦でなかった時間。
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