彼の視点。

5/6
前へ
/33ページ
次へ
 赤くなってるぞ。と彼女に言ったきり、黙ってしまった。  今日の妄想は長めらしい。  当然の事ながら、彼女以外に話し相手がいる訳はなく。  いたらそんな空気読めないヤツ、死んでしまえばいい。  だが我は暇なり。話し相手が、今だけなら欲しい。  そういえば。と、君に話し掛けられる前に考えていた事を思い起こす。何度も言うけど、暇だから。  身長が148センチの彼女の事は、ラブレターを渡されるその瞬間まで、話した事などなかった。  嘘じゃなくて、本当に。  いきなり「これ、読んで下さい」などと、今となっては二度と聞く事はないであろう敬語を使った彼女に、凄く驚愕したのは今でも鮮明に思い出せる。  手紙の封を開けるその瞬間まで、これはドッキリか、友達間の罰ゲームなのだ。と自分に言い聞かせた事も、懐かしい。  その手紙に書いてあった、好きになった理由が、あまりにもアレで吹いた。 『貴方のあくびをした時の顔があまりにかわいくて、あれから忘れる事が出来ません』  あくびかい。  かわいくてって、お前。  あれからって、いつからだよ。  どんだけ衝撃的なあくびだ。  ……自宅で、ツッコんだ。  しかも、めっちゃ声をあげて。  だけど、それが良かった。  彼女に、どんどん興味が沸いてく。  こんな理由で恋する子、もはや天然記念物だろ。  ぶっちゃけた話、理由はオレも好きだからではない。  君と一緒に、いてみたかったから。  沸き上がる自分自身のその好奇心に、オレは負けたのだ。 「……着きましたケド」  目の前に目的の建造物が見えたので、とりあえず声をかけてはみる。  反応するかは、知らないが。 「えっ!?」  どんだけ驚きですか。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加