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『...。』
俺は言葉が出なくて黙った。
『中丸、帰ろ??』
上田は中丸を連れて出ていった。
病室には、かめと俺の二人っきり。
『ねぇ、仁。』
『ん??』
『夏は、何してた??』
『夏の思い出は一つだけある。』
『なに??』
『海が綺麗な所に父さんと二人で行ったことがあるんだ。』
『へぇ。』
そう言ってかめは近く椅子に座った。
『綺麗な所で、そこで母さんに告白したんだって。』
『ロマンチックだね。』
『何も知らなかった。
父さんが死んじゃうなんてさ。』
『....。』
『目を開けなくなった父さんを見て、取り乱したんだよ。』
『...。』
『一人ぼっちってあの時の俺には耐えられなかった。』
『....。』
『...かめ。』
『なに??』
俺はかめの顔をちゃんと見た。
『後悔してない??』
『それは仁と付き合ったことを??』
『...。』
答えない俺にかめはベッドの端に座り、手を握った。
『...後悔してないよ。』
『...そう。』
『後悔してたら、こうして仁のそばには居ないよ??』
『..そうだよな。』
『それに仁は後悔した??お父さんと一緒に居て。』
『してないよ。』
『でしょ??だから、そんな顔しないで??』
『...。』
『かっこいいのに台無しだよ??』
『かめ。』
俺はそう言って唇にキスをした。
『かめ、笑ってて。』
『ん??』
『かめが笑ってれば、俺は幸せだから。』
『わかったよ。だけど、仁も笑ってて??』
『わかった。』
『約束してね。』
『あぁ。あ、今日は家に帰る日だろ??』
『あ、うん。』
『帰らなきゃね。かめのお父さんもお母さんも心配してるかも。』
『でも...。』
『俺はどこにも行かないから、な??』
『...。』
『かめ??』
『...母さんが旅行行きたいって。』
『旅行??』
『家族で行こうって。』
『じゃあ、なおさら帰らなきゃ。』
『...。』
『寂しいけど、家族での思い出は大切だから、行っておいで。』
俺はそう言ってかめの髪を撫でた。
『...お土産は何がいい??』
『ん-、かめの笑顔の写真。』
『そんなのでいいの??』
『いいの。』
『...わかった。』
『絶対だぞ??』
『わかった。』
かめの返事を聞いて、俺は首からネックレスを外し、かめにつけた。
『俺はすぐ近くにいる。』
『ありがと。』
『もう、行きな。』
『じゃあ、ね。』
そう言ってかめは名残惜しそうに帰っていった。
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