第8章:日常

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『...。』 俺は言葉が出なくて黙った。 『中丸、帰ろ??』 上田は中丸を連れて出ていった。 病室には、かめと俺の二人っきり。 『ねぇ、仁。』 『ん??』 『夏は、何してた??』 『夏の思い出は一つだけある。』 『なに??』 『海が綺麗な所に父さんと二人で行ったことがあるんだ。』 『へぇ。』 そう言ってかめは近く椅子に座った。 『綺麗な所で、そこで母さんに告白したんだって。』 『ロマンチックだね。』 『何も知らなかった。 父さんが死んじゃうなんてさ。』 『....。』 『目を開けなくなった父さんを見て、取り乱したんだよ。』 『...。』 『一人ぼっちってあの時の俺には耐えられなかった。』 『....。』 『...かめ。』 『なに??』 俺はかめの顔をちゃんと見た。 『後悔してない??』 『それは仁と付き合ったことを??』 『...。』 答えない俺にかめはベッドの端に座り、手を握った。 『...後悔してないよ。』 『...そう。』 『後悔してたら、こうして仁のそばには居ないよ??』 『..そうだよな。』 『それに仁は後悔した??お父さんと一緒に居て。』 『してないよ。』 『でしょ??だから、そんな顔しないで??』 『...。』 『かっこいいのに台無しだよ??』 『かめ。』 俺はそう言って唇にキスをした。 『かめ、笑ってて。』 『ん??』 『かめが笑ってれば、俺は幸せだから。』 『わかったよ。だけど、仁も笑ってて??』 『わかった。』 『約束してね。』 『あぁ。あ、今日は家に帰る日だろ??』 『あ、うん。』 『帰らなきゃね。かめのお父さんもお母さんも心配してるかも。』 『でも...。』 『俺はどこにも行かないから、な??』 『...。』 『かめ??』 『...母さんが旅行行きたいって。』 『旅行??』 『家族で行こうって。』 『じゃあ、なおさら帰らなきゃ。』 『...。』 『寂しいけど、家族での思い出は大切だから、行っておいで。』 俺はそう言ってかめの髪を撫でた。 『...お土産は何がいい??』 『ん-、かめの笑顔の写真。』 『そんなのでいいの??』 『いいの。』 『...わかった。』 『絶対だぞ??』 『わかった。』 かめの返事を聞いて、俺は首からネックレスを外し、かめにつけた。 『俺はすぐ近くにいる。』 『ありがと。』 『もう、行きな。』 『じゃあ、ね。』 そう言ってかめは名残惜しそうに帰っていった。
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