第二章

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† カイン  カインが目覚めたのは、日が昇りきったあとのことだった。滝の流れ落ちる音がする。起き上がると、枯れ草が、ぱらぱらと舞い落ちた。自分の上に覆い重なっていたらしい。見ると、自分の寝ていた場所には藁が敷かれていた。 「あれ、おれは……」  何をしていたのだっけ。記憶が途切れている。森の中を駆け回っていたのだけは覚えている。そして……  辺りは薄暗い。岩に囲まれている。自分は何故か、洞窟の中で眠っていたようだ。出口の方を見ると、眩い光が差し込み、そこから紅葉に染まった山が見える。そして、水の流れ落ちる音。そういえば、喉が渇いたな。カインはそう思って立ち上がる。すると、視界が揺れて、膝を付いた。 「まだ起きちゃ駄目よ」  出口の方で、女の声が聞こえる。彼女には蝙蝠のような翼が生えていた。色は白かった。白い蝙蝠の翼だ。胸にはたくさんの果実を抱いていた。  彼女は果実をカインの枕元に置く。そして、カインを藁の上に寝かせた。 「君は、エルファ?」  カインは彼女を知っていた。一度だけ、会ったことがある。そして、さんざん探していた。カインは彼女のことが好きだった。 「ええ」エルファはそうとだけ答えると、果実を一つだけ取り、果肉を食べやすいように千切った。 「これ、食べてみて」果肉の一片を差し出す。「これ、体にいいんだよ。病気とかもすぐに良くなるから」そして、エルファは優しく微笑んでみせた。 「病気? ああ、通りで体がだるいわけだ」  カインは差し出された果肉を、口の中に入れる。すると、みずみずしい甘い液体が舌の上で広がった。口の中でぷるっと揺れる感触。それを噛むとぷちっと音を立てて、さらなる甘い液が飛び出す。 「甘くて美味しい」カインは頬がとろけそうになって、柔らかい笑みをエルファに見せた。 「でしょ?」エルファもそれが嬉しかったのか、カインに続けて笑った。 「これ、なんていう果物なの? こんなに美味しいのは、食べたことがないよ」 「名前のこと? 分からないよ。ただ、森の中で遊んでいると、いつも木々が私にそれを食べさせてくれるの」 「木々が?」言っている意味が分からないといった感じでカインは問い返す。 「うん、みんな優しいんだよ」
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