12人が本棚に入れています
本棚に追加
† アンスウェル
白竜アンスウェルは森の奥深く、自分と同じくらいの背丈がある大木に、その長い首をより掛けるようにして、倒れていた。目は虚ろで、かつて空の王者として、竜の群れを率いていた頃の覇気は、もう残っていなかった。絶対に逃れられない死の気配を感じていた。
エルファと名乗る翼人の少女が戻ってきたのは、日暮れの時だった。そして、アンスウェルは、人間の少年が増えていることに気付いた。この前、エルファが助けたいと言っていた者であろうと、アンスウェルは理解する。しかし、カトレシアという野蛮人に襲われたこともあってか、少しだけ少年のことを警戒した。エルファがいなければ、食い殺すところだっただろう。少年は、巨大なアンスウェルのことを見上げると、怯えたように縮こまった。恐ろしいのはお前たち人間の方だと言いたくなる。しかし、このエルファという少女がいると、どこか落ち着いていられるのは何故だろう。どこか雰囲気が似ている。そんな気がした。きっと白い蝙蝠の翼のせいだろうと、アンスウェルは思う。その他は人間の少女となんら変わりがなかった。
「アンスウェルさん」そう言ってきたのは、エルファだ。少年は相変わらず、怯えている。エルファの影に隠れてさえいる。情けない。これがあの野蛮人と同じ種族とは思えない。アンスウェルはそう思った。
「お願いがあるのです。アンスウェルさん」ああ、知っている。それはこの前も聞いた。私の血を分けて欲しいのだろう。その少年を助ける為に。よほど、好いているのだな。その少年のことを。アンスウェルはどこか微笑ましい気持ちで二人のことを見下ろしていた。
「分かっているよ……」声を出してみたら、自分でもびっくりするくらい弱々しい声が出た。情けない。充分に理解しているつもりだったが、これほどまでに衰弱しているとは。
「どうせ、私の命もそう長くはないのだ。いくらでもくれてやるさ……」
最初のコメントを投稿しよう!