第二章

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「そんなこと言わないで下さい」  エルファは優しい事を言ってくれる。だが、そんなことを言われても無理なことだった。現にアンスウェルの意識も薄らいできている。今、眠ってしまったら、永遠に目覚めることはないかもしれない。死が間近に見える。そんな気がした。 「血を採るなら、早くしたほうがいいぞ。いくら竜の血といえど、腐ってしまっては、効果がないからな」 「また、そんなことを……」 「いや、私は充分に生きたさ。長く生きすぎた。それに本来なら、もう既に死んでいるはずの命だったのだ。それをエルファ、お前が助けてくれた。お前がここまで生き永らえさせてくれたのさ。もう充分だ。少しといわず全てくれてやるさ。私に恩を返させてくれ。そうでないと、私はあの世で同胞たちに見合わせる顔がないではないか」それに、エルファに殺されるなら、本望だと思えた。命の恩人に命を奪われるというのも変な話だが、少なくともあの男でないのなら。  それだけで充分であった。  自分の爪を一枚剥ぎ、それをエルファに持てるよう細かく砕いて、ナイフのように磨いだ。爪のナイフをエルファに渡した。 「その私の爪で出来たナイフなら、私の鱗を刺し貫くことが出来るだろう。そのナイフで鱗を剥いで、私の血をその少年に飲ませるのだ」  エルファはおずおずとナイフを両手で持った。さぁ、早く私を殺すのだ。エルファよ。我が同胞と同じ翼を持つ少女よ。  エルファが戸惑いながらナイフを竜の鱗に刺し入れようとした時には、既にアンスウェルの意識は無くなっていた……
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