第一章

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「カインー! カインー!」  夜の森で少年の名前を呼ぶ声が響いていた。村中の大人達が集まってきていた。そして、それに連れ添って、カインの友達も。 「駄目だわ。カイン君、いないよ」そう言ったのは、カインの友達の一人であった女の子ユーファだ。 「ほんとうにねぇ、あいつはぁ、まあったく何処をほっつき歩いてんだか!」  帰ってきたらただじゃ済まないからね。と腕を組んで、カインのお婆さんが言った。「まさか、あの子の身に何かあったのかしら?」カインの母が心配そうに涙ぐんで言う。「大丈夫さ。あいつも、男だ。腹がすきゃまたすぐに帰ってくるに決まっとるわい」 「お母さん……」 「見て。男の人たちが戻ってきたよ」  ユーファが森の奥を指差して言った。その言葉に二人はユーファの指を辿る。すると、森の奥から松明の明かりが見えた。彼女たちよりも先行して、カインの捜索に出ていた村の男達が茂みの中から出てくるところだった。その様子を見て、三人は一瞬、期待するも。 「駄目だ。見つからない」 「暗くて何も見えやしないよ」 「こりゃ、日が出るまで待った方がいいかもしれないな」  そんな半ば情けない声に肩を落とすばかりだった。 「まさか、カインの身に何かあったんじゃないかしら?」  カインの母が両手で顔を覆い隠して、擦り切れるような声で言った。 「ライカンスロープ?」  ユーファが唐突に思い出したように呟く。 「馬鹿言え。あれは御伽噺での話だよ」婆様が深刻そうな顔でそう言った。
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